映画『冷飯とおさんとちゃん』
つけっぱなしにしていたスカパーの東映チャンネルで(その前にやっていた『警視庁物語』を見ていたのだ)いつの間にか始まっていて、そのオープニングの映像で「おや?」と引きつけられて一気にみてしまいました、3時間。
山本周五郎の三つの短編が原作のオムニバス映画。主役の中村錦之助が、一作目の『冷飯』は武家の冷飯食いの四男坊、二作目は女房から逃げつつなお未練が残る大工、三作目は腕のいい火鉢職人なれど丁寧な仕事は今の時代に合わず貧乏暮らしを余儀なくされている職人を演じ分けます。どれも最初は錦之助が延々と歩く姿から始まります。一作目では何となくおどおどとした様子で緊張いっぱい、二作目では憂いがいっぱい、三作目ではヘロヘロの酔っぱらい。背中でものを言うこのシーンがいいのですよ。
どれも脚本が少々くどいような気もしますが、それが丁寧な演出につながっているとようにも思います。そして脇を固める豊富な役者。ちょっとした役でもそれが積み重なって映画全体の雰囲気を決めていきます。例えば一作目『冷飯』での古書店の主人・藤原釜足、屑屋・浜村純、叔父の花澤徳衛、五千石のお殿さま・千秋実、おしゃべりの三兄・小沢昭一。いいなぁ。女優もすてきです。木暮実千代、入江若葉、三田佳子、新珠三千代、渡辺美佐子、森光子。
70年代に入ってからの錦之助は大げさというか辛気くさいというかどうも好きになれないのですが、この頃の錦之助はグッと気持ちを内に込めた演技が光って本当にいいです。
撮影所のセットを贅沢につかっていて、その美しさにも惹きつけられました。見終わったあといい気分になれる監督は田坂具隆。
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