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2009/10/10

今月の歌舞伎座。『渡海屋・大物浦』は必見。

8日。歌舞伎座夜の部に行きました。演目は『義経千本桜』で、播磨屋の『渡海屋・大物浦』、音羽屋の『吉野山』『川連法眼館』です。いやはや、見終わったあとのこってりとした満足感。特に『渡海屋・大物浦』はしびれました。幕が引かれたあともしばらくは身動きできなかった。

船問屋「渡海屋」に滞在しているのは頼朝に追われている義経一行。実は「渡海屋」は源氏に破れた平家の隠れ蓑なのです。主人銀平は平知盛、妻のお柳は安徳帝の乳人典侍の局、子供は安徳帝。銀平は義経一行を送り出したあと知盛に姿を変え、家臣を従えて義経を討ちに行きます。ところが知盛側の形勢は悪く・・・

知盛は吉右衛門、典侍の局が玉三郎、義経が富十郎、弁慶が段四郎、他に歌六、歌昇という配役。吉右衛門の知盛がいいのはもちろんのこと、富十郎の義経がよかった。御歳80歳の義経ですが若々しく格調高く、何と言っても吉右衛門の知盛を受けとめるには、このくらいの役者さんでないと務まりません。復讐の鬼となった血だらけの知盛を諭す場面のやりとりの緊張感といったら!
弁慶に首にかけられた数珠をひきちぎり、憤怒の形相の知盛も、義経に助けられた安徳帝の言葉でついに気持ちが折れてしまいます。しかし源氏を恨む気持ちから逃れられない知盛。知盛は平家の怨霊にとりつかれているのでしょう。そんな知盛が哀れでなりません。吉右衛門はその心の動き、苦しみを内に込めた演技の中に表していて見事でした。

現世ではもう救われない知盛は義経に安徳帝の行く末をたのみ、自分は大きな碇を重しに海の中へ消えていきます。それを花道に佇んで見送る義経。このとき義経は何を思うのか。鎮魂だけではないように私には思えました。安徳帝を連れて静かに立ち去っていく義経一行の行く末も明るいものではなく、このお芝居全体がなお一層哀れでなりません。最後に弁慶が吹く法螺貝が劇場に鳴り響きました。

男達の影に隠れた感じの玉三郎ではありましたが、やはり存在感は並大抵のものではなく、味方が次々と討ち死にしていくなか、十二単姿で安徳帝を抱いてキリリと正面を見据えたまま館から外への数段の階段を下りていく姿なぞ、気品に満ちていて感心しました。もはやこれまでと安徳帝共々海へ・・・という場面で「いかに八大竜王」とキッと天を見据えるところなどはゾッとする美しさで椅子からずり落ちそうになりました。

吉右衛門はいいですなー。風格があります。それだけで客席を納得させちゃう。渡海屋主人銀平として花道を登場するところの姿のよさっていったら、あーた、これで惚れない人がいたらその理由を聞きたい。入り口で家の中の様子をうかがう場面のかっこよさ。ほれぼれ。

白装束で登場する平家の武将たち(家臣の相模五郎なぞは髑髏付きの鉢巻きをしてる)、知盛入水、最後の花道の場面など、歌舞伎らしい演出も堪能しました。
これみよがしの派手な演技のない、大人にしかわからないお芝居でございました。
もう一度見たいです。一幕見席に行ってみようかなー。

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コメント

こんにちは。先日はブログにコメントくださり、有難うございました。実は私もこちらの読者でした(お名前とブログ名が結びついてなかった……)。

拝読しただけで良い芝居を疑似体験したような心持ちになりました。私も夜の部に行くのですが、待ち遠しい気分です。

投稿: j_i_k_a_n | 2009/10/10 21:01

j_i_k_a_nさん、コメントありがとうございます(^^)。
今月の夜の部は、ほーんとにいいです。
『渡海屋・大物浦』は、もう泣けて泣けて。幕がひかれたあともしばし余韻にひたっていました。そういうお客さんは結構いたようで、いつものように脱兎のごとく食事に向かう人が少なかったように思います。
『吉野山』『川連法眼館』もよかったですよ。でも『川連法眼館』は菊五郎の老いを少し感じてしまいました。『吉野山』はさすがでした。

今の吉右衛門は見ておかないといけない人筆頭だと思っています。歌舞伎座の「さよなら公演」で『俊寛』と『熊谷陣屋』をぜひ播磨屋でやってくれないかなーと思っているのですが・・・。

投稿: あやこ | 2009/10/11 02:32

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