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2009/06/30

「大阪の宿」@神保町シアター

29日。久しぶりに映画を見に行く。五所平之助監督の「大阪の宿」(1954年・新東宝)は大好きな映画なのであります。
東京から大阪へ左遷されてきた男(佐野周二)が下宿する土佐堀川沿いの旅館「酔月」を舞台に、様々な事情を抱えながら生きていく人々の姿をユーモアを交えて描いていきます。
とにかく脇役がいいんだなー。
特に酔月の女中二人、遠くに子供を預けて働いている戦争未亡人(川崎弘子)、失業中の夫にたかられ続ける女(水戸光子)がすんごーくいい。グッと感情を押し殺した表情がなんともいえない。
他にも労咳の父親のために苦労する少女、因業な酔月の女主人(三好栄子)、その弟で酔月で世話になっているオッサン(藤原釜足)、アプレな酔月の若い女中(左幸子)、佐野周二に思いを寄せる北新地の芸者(乙羽信子。かわいい!)。他にも細川俊夫に田中春男、多々良純と芸達者な人が大勢出てきて、こうなると、佐野周二の大根ぶりもかえっていい感じ。

登場人物の一人一人が背負っているものは重く、ややこしい事ばかりで、決して幸せとは言えない人ばかりが出てくるのに、画面にただよう空気は悲惨とは別のもの。それは何があっても人間は生きていかなければならないということが、この映画の根っこに流れているからなんだと思います。

戦後、急速に時代が変わり、誠意とか信頼とか思いやりとかが消えてしまうように思える世の中で、でも自分だけは人を信じて生きていきたいという主人公。その思いが時々空回りをして目指す結果に結びつく事はなくても、酔月の女中や友人たちは、彼の誠意を好ましく思い、お互いの信頼だけで深くつながっていきます。
これから先も、つらいことばかりだろうし、明るい展望なんてないけれど、信頼さえあれば、人は生きていけるし、生きていかねばならないんだということが、この映画のラストシーン、東京へ戻る主人公の歓送会の場面に凝縮されていました。みんなで炭坑節を歌いながらの泣き笑いの表情がすべて。五所平之助の演出のうまさにほれぼれしました。

様々なシーンの背景に、大阪の繁華街のネオンと川の流れが出てきます。水の都という言葉がしっくり。
主人公が女中二人を連れて大阪城へ遊びに行く場面が私は好きです。たった半日のお休みで(それも素直にはもらえないわけだけれど)すぐ近くへのお散歩のようなお出かけでも、彼女たちにとっては遠くへの旅行にも等しく、楽しかった思い出の一つとしていつまでも心に残っていくのでしょうね。

関係ないけど、私がよく行く湯ヶ島温泉の湯本館には、五所平之助の色紙がいくつかあります。流れるような繊細な筆遣いで、こっちもほれぼれ。

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