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2008/10/17

『大老』の感想。

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13日・国立劇場。北條秀司作。初演は昭和45年。ベンベンの義太夫狂言ではなく、言葉も現代的で歌舞伎といってもわかりやすーいお芝居でした。
主役は吉右衛門演じる井伊直弼。埋木舎(うもれぎのや)で妻と二人、貧しくも静かな暮らしを営む直弼が、兄の死で考えもしていなかった彦根藩主となり、幕府の大老として開国を迫るアメリカに対峙することになります。攘夷派の急先鋒、水戸藩との対立の中、強行手段に出る直弼。世間の批判をあびながら、やがて桜田門外で命を落とすまでを描いた4時間ほどの長丁場ですが、その時間を感じさせない、いいお芝居でした。

ほんとーに吉右衛門がよくて、直弼が吉右衛門なのか、吉右衛門が直弼なのか、虚と実が重なって見えました。特に終盤の「千駄ヶ谷井伊家下屋敷一室の場」での直弼は、吉右衛門その人に見えました。
身分が低いため、今は側室となって下屋敷にいる妻・お静と過ごすひとときが、直弼にとっては唯一の安らぎの場。お静と埋木舎での生活を懐かしみながら、四面楚歌の状態で国の舵取りをしていかないといけない苦悩をお静に吐露する直弼。その切なさつらさ。それをがっちり受けとめるお静。「それでもいいではないですか」というお静の言葉で直弼は、信念を押し通して自分が捨て石になることを悟ります。ジーンとしました。そう思えれば、強くなれるもんね。
お静役の魁春がこれまたよかったなー。女として、人としての魅力がたっぷり。

また、直弼の側近として安政の大獄を実施する長野主膳を演じる梅玉が、噛みしめれば噛みしめるほど味がしみ出るような演技で心に残りました。もとは学者で、埋木舎時代は直弼と酒を酌み交わし、語り合う仲だったのに、政治の舞台に立ってからは変貌。でも、これもあれもすべては直弼のため、国のため、信念のため。彼自身も苦悩の人であった事を感じました。
直弼の正妻役の芝雀のお姫様ぶりもよかったし、水戸斉昭と水戸藩士二役の歌六は出てくるだけで安心します。老女役で吉之丞、歌江が出てたのもうれしい。
脇を固める役者さんが程良く吉右衛門を支えていて、全体に奥行きを出していました。

舞台は幕末でお侍が出てくるお芝居でも、現代に通じるところの多いお芝居だと思いました。直弼や主膳と同じように社会の最前線で苦悩している人は大勢いるだろうし。その一番しんどい時にお静のように「それでもいいではないですか」と言ってくれる人が近くにいるだろーか。

お芝居の最初に埋木舎のシーンを丁寧に描くことで、終盤ぐっと盛り上がりました。脚本もよくて、本当によくできたお芝居であります。剛直で骨太でがっつり。おすすめです。

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