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2008/03/20

『人情紙風船』@神保町シアター

テレビ画面では何度も見ている映画ですが、映画館で見るのは初めて。いい映画だなぁとしみじみ。
映画の感想は人それぞれだから、私は順位をつけるのはあまり好きではないのだけれど、それでもやっぱし「日本映画ベスト○○」なんつー企画があったら、その中に入らなければウソだろーと思う名作。1937年・P.C.L.東宝。28歳で戦病死した山中貞雄監督の遺作であります。
20代でこういう映画を撮ってしまう監督のセンス、三村明の都会的なカメラワーク、翫右衛門はじめ、前進座を中心とする役者たちの芸達者ぶり、そして何より映画全体にただよう哀愁がたまりません。押しつけがましくない、少し控えめにも思えるような演出の中にあふれる叙情性。

お芝居の『髪結新三』を軸に、仕官を願う貧しい浪人夫婦の悲劇が絡み合います。
その日暮らしの人たちが住む裏長屋。新三(中村翫右衛門)は髪結いをやめ小博打に精を出し、浪人・海野又十郎(河原崎長十郎)は仕官の口を求めてさまよう毎日。新三は縄張りを仕切る親分ににらまれていますし、又十郎は亡き父の手紙を持って、父の知人でいまはとある藩の要職にある毛利三左衛門に仕官を頼みますが全く相手にされません。大雨の中、毛利三左衛門に邪険に扱われた又十郎が、じっと雨に打たれたまま佇んでいるその時(このシーンは映画史に残る場面だと思う)、新三はひょんな事から質屋の娘をさらって自分の部屋に連れてきてしまいます。なりゆきから新三の片棒を担ぐことになってしまう又十郎。もともと意地を張り通すためにさらってきた娘。傷つけることなく娘は無事に帰しますが・・・

この時代の映画をみているといつも感じるのだけれど、着物の着方が実にゆるやかなのです。だらしがないわけではなく、かといってきちんとしすぎているわけでもなく。着物が体にぴたりと身に付いている感じ。着物が普段着であった時代ならではでしょうね。長屋のセットも、常にジメジメ湿気ていて「昔はこんな感じだったんだろうなぁ」と思わせます。
体が大きいだけでコレという才能のない又十郎役の河原崎長十郎がいい。何も言わず内職に精を出す妻の、内に秘めたる武家の女としての意地。ラスト近くでそれがかいま見られるシーンの凄惨さ。
翫右衛門のチンピラぶりも気持ちがいいし(顔は悪いんだけどねー。味あるねー)、ヤクザの手下に市川莚司時代の加東大介が出ていて、これまたうまい。
そして、その日その日を暮らしていくだけで精一杯の長屋の連中。生活に余裕がないぶん、かえって気楽で、のんびりしたところもあって。この人たちがいないと、この映画はなりたたないよねぇ。

映画は、最後、バタバタバタと叩き込むように全てがアッと言う間に終わってしまいます。筋だけを追えば本当に救いのない映画なのに、見終わったあと何かいい気分になれるのです。それは山中貞雄の視線が、見下ろすわけではない、登場人物や映画の観客と同じ視線で映画を撮っているからだと思います。
現存する山中貞雄の映画は、これを含めて3本。そのどれも、とてもいい映画ですが、まだまだいい映画があったという話しを聞くと(『国定忠次』とか『街の入墨者』とか)、本当に惜しいです。でもこの先、どこかからひょっこり出てくるっていう可能性もあるしなー。

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