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2007/08/18

今月のお芝居『裏表先代萩』

8月の歌舞伎座は3部構成。第2部には渡辺えり子の新作がかかって早々に売り切れたようですが、私が見たのは第3部『通し狂言 裏表先代萩』です。伊達騒動を足利家のお話しにした時代物の人気狂言『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』の書き換え狂言で、『伽羅先代萩』の間に、小悪党・小助が主人を殺す世話物が挟まるという趣向のお芝居・・・って見てみないとわかんないですよね。『伽羅先代萩』を知っている人には世話物のところが時代物のパロディになっていたりもしているようなんですが、私は元の『伽羅先代萩』を見たことがないので(^^)。
とにかくめったにかからない珍しいお芝居だとか。ここで勘三郎は、政岡、仁木弾正、小助の三役に初役で挑みます。まさに勘三郎大奮闘公演。

『伽羅先代萩』は歌舞伎の本を読んでいると絶対出てくるおはなし。お家乗っ取りをたくらむ一派に命を狙われている幼君・鶴千代を守る乳母・政岡といえば、女形の大役中の大役ということだし、他にも、鼠が出てきたり、その鼠を退治する荒獅子男之助、悪者の親玉・仁木弾正・・・と見どころいっぱい(らしい)第三幕「足利家御殿の場 同・床下の場」が楽しみです。

その第三幕。
政岡は、お家のために幼い我が子を犠牲にします。目の前で我が子が殺されようとしているのに、表情一つ変えず、涙も流さず平然と若君・鶴千代を守る政岡(その姿が誤解を生んでおはなしは進んでいきます)。少し無骨にも見える勘三郎の政岡は、最初は少しギョッとしたけれど、見ているうちに若君を守りたい一心が伝わってきて見ているこちらが政岡に心を合わせてしまいます。そして、まわりに誰もいなくなったとたんにふっと気が抜けて花道の端っこでぺたんと座り込んでしまう姿が印象的でした。
死んでしまった我が子の前で、嘆き悲しむ政岡。浄瑠璃とのかけ合いで、ここは「クドキ」の名場面。こちらも息が出来ません。

舞台が奥御殿なので、登場人物は女ばっかり、それも迫力のある人ばかりなので舞台が狭い狭い。こんなに歌舞伎座の舞台が小さく見えたのは初めてでした。悪の黒幕、栄御前の秀太郎は風格があって、いやらしさの中に抜けているところがよく、また政岡の一子、千松を刺し殺す八汐役の扇雀も、意地悪さ満点でよかったです。あぁ、こんな女、いるかもと思わせるような(笑)。八汐は千松の喉元に懐刀をジリジリとねじり込み、そのたびに「あぁぁ」と千松がうめき声をあげるのです。すごい・・・。歌舞伎はこういうところがすごい。現代劇でこんなのしたら、絶対新聞沙汰ですよねぇ。この八汐は二世中村鴈治郎の当たり役だったともいいます。想像できる(^^)。あぁ、見てみたかったなぁ。

政岡は、長丁場を一人でもたせ、おまけにコロコロ変わる状況を表現し、我が子を殺されながらも平然としている「公」の自分と、かわいそうな事をしたと嘆く「私」の部分を見せないといけない。そして大名家の若君の乳母としての品も必要と、女形の大役と言われる意味がよくわかりました。

さて、御殿の場面が終わると、舞台は照明が落とされ、観客の目の前で、舞台がスリスリとすり上がっていきます。こういう裏側の場面を見せるのも歌舞伎の面白いというか変なところなのだ。

場面はいきなり御殿の床下。御殿の場の最後に、政岡の袂から転げ落ちた悪者達の連判状を一匹の鼠が加えて逃げていきます。その鼠を捕まえた宿直の荒獅子男之助(勘太郎)。着ぐるみの鼠を右足で押さえつけた荒獅子男之助の姿も歌舞伎の本ではよく見る場面。勘太郎、熱がこもっています。がんばれー。

荒獅子男之助の足下からするりと逃げた鼠はクルクルと回って、すっぽん(花道のセリ)に入ったと思ったとたんにボヤボヤと煙がたって、そこから悪の一味、仁木弾正(勘三郎)でどろんと出てきます。本当に「どろん」と出てくる。鼠は仁木弾正が妖術を使って化けていたのです。舞台には幕がひかれ照明は落とされ、2本のロウソクの灯りに導かれるように、仁木弾正はふわふわと去っていきます。本当に「ふわふわ」と飛んでいくのだ。
これが不思議で、別に宙乗りとかしているわけじゃないんだけど、なんとなーく「ふわふわ」しているように見えちゃう。なんとなーくそう見えちゃう、思えちゃうっていうのが変なんだよねぇ。

勘三郎の政岡は、まだまだ勘三郎が政岡を追いかけているような気がしたけれど、私はとてもよかったと思えました。『伽羅先代萩』で勘三郎が政岡をやる事があったらぜひ見たいです。

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コメント

あやこさま、こんにちは!

8月は納涼歌舞伎、いつもとちょっと趣向が違って面白そうだなー、って思ってました。「裏表先代萩」、
気になってたところです。
勘三郎の政岡、観たかったなぁー。
伽羅先代萩、ちょうど「御殿」と「床下」は藤十郎の襲名披露公演で観たのですが、通し狂言でも今年やりましたよねー。観に行けなかったですが。
藤十郎の政岡も貫禄があって、上方の「情」がよく映し出された場面でもありました。
(床下は吉右衛門と幸四郎だったんですよー。)
実は私、歌舞伎を見るまで「伽羅先代萩」ってよく知らなかったんですけど、とても印象に残る場面が多くて、観た後は好きな演目の一つになりました。
納涼歌舞伎、行きたかったのですが怪我しちゃって、もはや無理っぽいのですが(泣)、来月は吉右衛門の「秀山祭」なので、行けたらいいなーと思ってます。

投稿: hikaru | 2007/08/19 01:22

hikaruさん、こんばんは。
納涼歌舞伎は予定が流動的だったので半分あきらめていたのですが、仕事が一息ついたときに、ふと思い立って電話してみたら、6列目のど真ん中が空いていまして。キャンセルでたんですかねー。
勘三郎の政岡、よかったですよ。これから歳をとるにつれてどんどんよくなっていくんではないかな。三役の中では政岡が一番よかった。
これを見て『伽羅先代萩』、通しでみたくなりました。いろんな人の政岡を見てみたい!

>>床下は吉右衛門と幸四郎だったんですよー。

ぐわー。
今回は勘太郎がめちゃくちゃ気合いれていました。大役だもんねぇ。
9月は『熊谷陣屋』がかかるんですよね。見たいなぁ。
そして10月は!!仁左衛門&玉三郎で、『怪談 牡丹燈籠』が通しですよ!
国立劇場では幸四郎で『俊寛』。うーん。お金がいくらあっても足りん。

投稿: あやこ | 2007/08/20 23:09

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