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2007/03/15

『たそがれ酒場』@内田吐夢

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スカパーで『たそがれ酒場』(1955年・新東宝)を見ました。私の知らないいい映画が、まだまだいっぱいあるんだなーとちょっと感動。内田吐夢監督の戦後復帰第二作目です。

渋谷か新宿か新橋か、東京のとある盛り場にある100人くらいは入れそうな酒場。この酒場の開店から閉店までの半日がこの映画の舞台です。芯になるストーリーは、専属ピアニスト江藤さん(小野比呂志)と、彼について声楽の勉強をしている専属歌手のケンちゃんにまつわるおはなし。それに酒場にやってきたお客や店員の短いエピソードがからんでいきます。

競馬好きの常連(加東大介)は偶然にも、今はさえない不動産ブローカーをしている元上官(東野英治郎)と出会い、酒を酌み交わします。ただ酒にありつこうと、店内をうろうろしてまわる男(多々良純)、恩師の壮行会らしい学生グループ、サルトル論を交わす男女のグループ、旦那とお妾さん、店員のユキちゃん(野添ひとみ)を取り合っている愚連隊のボス(丹波哲郎)とユキちゃんの恋人(宇津井健)。店の呼び物ストリップのダンサー(津島恵子)が、何かしら事情のあったらしい男性に刺されるという事件もおきます。エピソードの一つ一つは、この酒場だけの話しなので、深く語られることはありません。会計をすませて店を出ていけばそれでその人たちはこの世にいなかったように消えていきます。

その中で最初から最後までいるのが常連の「先生」(小杉勇)。先生はカウンターの端に座ってお酒を飲みながら、この酒場に来ては去っていく人たちをただ一人見つめています。先生の視線は観客の視線でもあります。

映画のもつ雰囲気が洒落ていて、まるで戦前のフランス映画をみているような感じ。酒場のセットが実によくできているし、その狭い空間を上下左右に流れるように動くカメラもすばらしい。そして何より次から次へとやってきては消えていくお客、店員の雰囲気がいいのです。学生、工員、サラリーマン、傷痍軍人、家族連れ、新聞記者。一人一人の背中に生活を感じるのですよ。内田吐夢の演出が細部にまで気を配っているのがよくわかります。俳優ではない素人も何人かいるんじゃないかな。場面の切り替えにケンちゃんの歌(本物の声楽家らしいです)が効果的に使われているのもよかった。放っておくと、とりとめがなくなってしまいそうなお話しを、最後までだれることなくまとめた脚本も見事。

江藤さんの足下で常にじゃれている子犬がいいんだなー。映画の前半で店内を駆け抜けていくだけの「追われる男」が天知茂というおまけ付き。

戦後10年たっても、戦争で受けた傷を背負って生きている人たち。そしてそんな事はまるでなかったように新しい時代に顔を向けている若者たち。チャンスを得て酒場を出ていくケンちゃん。恋人と別れて国へ帰るというユキちゃん。そしてこの酒場に残るしかない江藤さんと先生。
ユキちゃんの背中を抱きながら酒場を出ていく先生の背中にかぶさるようなケンちゃんの歌声が心にしみるラストシーンでありました。本当にいい映画であります。ハイ。

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コメント

内田吐夢といえば『飢餓海峡』と『血槍富士』の2本が大傑作でありますが、歌舞伎の「恋女房染別手綱」を映画化した『暴れん坊街道』も素晴らしいです。親子の別れ、理不尽にのしかかってくる体制の力に踏みにじられる人間の姿を押し付けがましくなく描いた秀作。主演の山田五十鈴を語る上でも落とせない1本だと思いますし、また佐野周二の男らしさと優しさ、千原しのぶの凛とした美しさも特筆ものであります。
また、武田泰淳の原作を得た『森と湖のまつり』は、原作とのズレっぷりが興味深かったですね。人間の深層の欲望を、アイヌ民族の悲哀、北海道の雄大な自然を背景に描いた原作が、映画ではハリウッド映画みたいな単純なストーリーになってしまっていて・・・・。でも、若き日の高倉健と三国連太郎の西部劇ばりの対立劇は現在ではけっこう新鮮かも。

投稿: Ryo | 2007/03/18 10:56

内田吐夢って、ずーっと長い間「飢餓海峡」しかしりませんでした。ここにきて、少し他の映画を見る機会にも恵まれて・・・「しっかりした」映画を撮る人だなーって印象です。「どたんば」なんて、ふだんは脇役で活躍しているような地味めの俳優をたくさん使って、落盤事故というハラハラする上京を、実にうまく演出していました。
「暴れん坊街道」って、よさそうですね。要チェックです!

投稿: あやこ | 2007/03/18 11:31

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