« 玉椿の薫製三点盛り | トップページ | 世の中夏休み »

2006/07/24

『大菩薩峠』@市川雷蔵

昨夜は寝しなに雷蔵の『忍びの者』を見た。見てたら急に『大菩薩峠』が見たくなって、見ないと気持ちが収まらなくなってきたのでTVの前でごそごそしていたら、寝室から出てきた夫が「何してるの?」ときいてきた。「これから『大菩薩峠』を見る」とDVDをセットしながら答えたら「何時だと思ってるの!」と怒られてしまいました。1時過ぎてたかな(笑)。

市川雷蔵主演の『大菩薩峠』は三部作。私は一作目(三隅研次監督・1960年)が好き。雷蔵の映画の中でも最高に好きな一本であります。
中里介山の原作は立ち読みすらした事がないのでどういう話なのかは知らないけれど、映画になっているのはその一部分だそうな。
あらすじを書き出すときりがないので、すっごーく簡単に書くと、「音無しの構え」を使う剣豪・机竜之助(雷蔵)は迷いの果てに辻斬りとなり、奉納試合の相手を打ち殺し、その妻を陵辱し自分の妻にするも錯乱の果てに斬り殺し、妻の亡霊に脅かされながら気が狂っていくというはなし。そこに竜之助を仇と狙う青年をはじめ、様々な人物が入り乱れていく。人生の糸が絡み合う長い長い旅の物語なのであります。

当時まだ29歳の雷蔵は妙にひょろ長くて(そういう着物の着方をしていると思うし、わざと鼻の下を長くみせるような表情をしてる)影が薄くて、生きているのか死んでいるのかわからないような演技をしてみせる。それが妖気漂っていていいんだわ。
それとセット撮影が多いのですが、その美術がすごい。照明がすごい。これまたイマジネーションの世界に遊んでいるようなセットと照明で、お話しの世界、雷蔵の雰囲気とバッチリ合っているのでした。

例えば竜之助が闇討ちにあう森のシーン。ドイツ映画『ジークフリード』に触発されたという森のセットは大木の下半分がシネスコの画面をぶった切るように乱立し、たちこめるもやの中に光が射し込んでいるという幻想的なもの。そこに放れ駒の黒紋付の着流し姿の雷蔵がシルエットで佇み、手にした刀の刀身だけに光が反射してきらりと光る。時々ふっと顔の一部分に影のような光があたるのですが、その時の表情がゾッとするほど美しい。そして何人も斬り倒したあと最後のカットは刀身からしたたり落ちる真っ赤な血。ほとんど色のないシーンの最後に赤い血。これぞ三隅研次の美学じゃっ。

竜之助の江戸の家のシーンでは、襖で画面を大胆にカットした構図で夫婦の緊張感を出してみせる。影の使い方もすてき。顔の上下を切っちゃうようなアップも三隅研次らしい。竜之助が妻を斬り殺すシーンは、林の向こうに変に曲がった塀が見えて『カリガリ博士』の屋根の上のシーンみたいです。

そしてラスト近く、京の遊郭の一室で、竜之助が妻の亡霊に錯乱していく場面は圧巻。刀を振り回し幻覚の白い御簾を切り裂いていく。そして外に出た竜之助と対するは彼を仇と追い続ける宇津木兵馬。ここで会ったが百年目。梵鐘が画面の底を這うように鳴り響く中、竜之助は川の中で兵馬に向かってスッと刀を構えます。まるで水の上に浮かんでいるような。

竜之助に犯され、彼の妻となり男の子をもうけるお浜役の中村玉緒がいい。玉緒ちゃんはいつからあんなガラガラ声になってしまったんでしょーか。
第二部、第三部と竜之助の業と闇は深くなっていく一方(本当に目が見えなくなってしまうのだ)ですが、「死にたければ勝手に死ね」と言い放ちつつも、誰よりも一番「救い」を求めていたのは机竜之助ではなかったかと、見終わったあと思うのです。

やっぱ三隅研次はいいなー。脚本は衣笠貞之助。
第一部、第二部ともに「おいおい、ここで終わりかよ!」という終わり方をするのでDVDで見る場合はご注意を。

|

« 玉椿の薫製三点盛り | トップページ | 世の中夏休み »

コメント

市川雷蔵をふらふらと検索していたらここに行き着きました。雷さまは、映画は一度も見たことがなかったけど、テレビの放映でイカレてしまいました。まだ、眠狂四郎の段階の初心者ですが、いつか『大菩薩峠」も見てみたい。

投稿: 籔椿 | 2010/07/04 15:11

籔椿さま、初めまして。
市川雷蔵は亡くなってもう40年以上になりますが、いまだに新しいファンが増え続けているのがすごいところ。雷蔵は死なず!です。
なので、映画も比較的よく見られますね。CSでは定期的に放送がありますし。名画座にも時々かかります。
「大菩薩峠」はぜひ。そして現代劇の市川雷蔵も機会があったらぜひ見てください。かっこいいよー。

投稿: あやこ | 2010/07/04 20:38

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『大菩薩峠』@市川雷蔵:

« 玉椿の薫製三点盛り | トップページ | 世の中夏休み »